菊地先生のある一週間 |
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2012.04.02(月)朝9時22、3分起床。いつも通り、寝ぼけ眼で、「おーい、お茶」 返事なし。妻いない。早速、頭に乗って、バカだのとんまだの罵る。 「はい」 死角でパソコンをいじっていたらしい。妻いる。 既に1人朝飯を平らげたらしく、 「ご飯お昼までいいわよねっ?」 ここで気迫だ。 「はーい」 自分がイヤになるのはこういう時である。 気を取り直して、HDにたまっているマテリアルをDVDにダビングしはじめる。 なぜたまっているかと云うと、1週間ばかり実家へ帰っていたからだ。一昨日帰ってきた。なのに何故ダビングしなかったかと云うと、長いことイカれてたモニターが、ついに壊れたせいである。新品は昨日入った。どうせ、昨日は何してたと聞きたいだろう。1日中外出して疲れたんだよ。 「バカみたいに何でも録るから、あたしの頼んだオペラまで録画出来なかったじゃないの」 気迫だ。 「はーい、以後気を付けます」 運命を感じるのはこういう時である。 しかし、ギリギリ間に合った2本が、 ドライエルの『吸血鬼』 と いまだDVDも出ていないサスペンス『不意打ち』 だったのは、不幸中の幸いであった。前者は従来の独仏英版から、失われたオリジナル版を復元しようと云う、映画人の底力を見せ付ける試みで、復元ラボの所在地の名を取ってこの『吸血鬼』は(ボローニャ版>と呼ばれる。 しかし、モニターのスクリーンにとーんと 『吸血鬼ボローニャ<復元版>』 と出るのは一考を要する。後に 「トランシルバニアの吸血鬼ボローニャ伯爵が」 などと言いだすエセ評論家が絶対現れるぞ。ま、一考しても遅いけどね。悪いタイトルでもないし。 後者はかの平山夢明先生絶賛の白黒サスペンス映画。向こうでもDVDになっていないと云う。 家庭用エレベーターの電源が切れ、宙吊りになった主婦が、様々な侵入者ともに脅かされる。頼みの息子は遅くまで帰らない。助けを求める術もないまま、主婦は異常をきたしていく。ああ、ヤな話だ。 これもタイトルがよろしくない。なんだよ、『不意打ち』って? 『宙吊り女の戦慄』とか『恐怖!籠の鳥』とかの方がずっとマシだと思う。 ハムエッグと目刺しで昼飯。S伝社へ原稿20枚送る。すぐ電話あり。 警察へ失踪届け出そうかと思ってましたよ。そういや実家へ帰るとは言ってなかったな。もう大丈夫。終わるまで外出しないで書くから。ホントですか? ホント。じゃあ出来た順に送って下さい。任しとけ。 13時半頃、外出。小田急線沿線に入院中の友人の見舞い。会うたびに元気になっていくようで嬉しい。その代わり、 「冷えピタが欲しい。チョコ入りのソフトクリームが食べたい」 とこき使われる。また人生について考えさせられる。 何度も看護士さんくる。食事、トイレ、投薬、検温。大変だ。しかも、患者のナースコールひとつで、何を置いても駆けつけなければならない。汗を拭く、体の向きを変える、痒み止めを塗る、重労働もいいところ。私よりずっと小柄な女性である。何が彼女をこうさせているのか? 職業意識?患者への同情?誠実さ?ナルシズム? 多分全部だ。しかし、何かが足りない。この何かが人を人たらしめているのかも知れない。世界がどんなに無茶苦茶でも、希望はあるということだ。 しみじみと病院を出る。タクシー。疲れてヨレヨレ。以前、駅から病院まで乗ったタクシーの運ちゃんは映画好きで、黒澤明の息子の久雄と高校のクラスメイトだったという。 「お客さん、クリエイター?」 こんなこと言われたら、もうおしまいである。舞い上がる。 「いやあ、映画関係者」 と合わせてしまう。 「おれの人生を変えたのはフェリー二の『甘い生活』ですよ」 そうかい、おれはハマーの『吸血鬼ドラキュラ』だがよ。 お客さん、どんな映画が好きなの? と来たから、ホラーと西部劇だと答える。「へえ、じゃあ、『シェーン』の決闘シーンで、アラン・ラッドの代わりにガンプレイやったの誰だか知ってる?」 「ジェームス・ディーン」 「もう降りちゃうんですか?」 降りるよ。目的地に着いたからな。しかし、あの運ちゃん、今はどうしているか? 帰宅時間は20時頃。夕飯はカレー。原稿書けず。この「日記」を始める。半分くらいで、操作ミス。消えたぞ。書き直し。すぐ送る。成功である。 後半にかかる。終わり頃グラマーな友人から電話あり。デヘデヘと深夜の長話し。 じゃあね~、バイバイ~>っておれは何物だ? 書き上げて、送信、と思ったら、いつのまにか消えている。犯人はわかっている。オヤジの呪いだ。一時間かけて書き直し。さあ、行くぞ。と思ったら、バッテリーがキレた。あわわわわ。大急ぎ一時間。さあ、送るぞ。 しかし、なんでメール一本送るのにこんなに緊張しなくちゃならない?機械のせいか? それとも私がアホなのか?イッけえ~。 2012.04.03(火)やった!成功。ミスの原因もわかったし、もう寝る。11時25分起床。窓の外の色と音がおかしい。いきなり頭上から、 「台風なみの低気圧が来てるらしいわよ。総武線が転覆して、フェリーが片っ端から沈没してるって。あんたの友達からも、いま風で飛ばされたって電話がかかって来たわよ」 そんな器用な友達がいるものか。しかし、外は台風と同じである。風で飛んだ友達はいないが、飛ばされるところは見たい。窓から通りは見えないので、時々玄関の戸を開けて確かめるが、平和なもんである。つまらんな 原稿書けず。相も変わらずダビングに精を出す。今日から中断していた録画も始める。これが手間なのだ。我が家にはケーブルTVが入っているので、録画チャンネルは豊富だ。最初は映画だけだったものが、ヒストリー・チャンネルだのナショナル・ジオグラフィックだのFOXチャンネルだのが加わったから、もういけません。 ①宇宙の謎 ②ミリタリー大百科 ③未知の世界史 ④恐竜バンザイ ⑤ランジェリー・フットボール ⑥衝撃の瞬間 これが1日数本ずつ。プラス映画とテレビ。テレビは地上デジタルとBSがある。予約だけで一時間を要する。リビングの寝床の隣には、DVDの山が6つある。これを全部見ることが出来たら、私は百科辞典とばれるだろうが、幸いそんなことは一生あるまい。 パソコンで「D-貴族戦線」の成績を調べる。うーむ。朝日文庫とSF・ホラー・ファンタジーの項では1位だが、文◎堂の全国ベストではーか。Amazonのベストセラー・ランキングでは203位。100位以内に入らないと表示もされない。なんか癪にさわるので、同じく朝日ノベルスから出ている〇枕貘氏の「天海の秘宝」上下をチェック。昨日見たときは、確か「グレイランサー」①②と「エイリアン虚空城」の下であったぞ、ケケケ。あれ、上田。 ますます頭に来て、近所にある気に食わない喫茶店のシャッターを蹴飛ばしに行こうかと画策するが、バレると捕まるからやめる。 録画した松本清澄生誕20周年記念『市長の死』とエドワード・ノートン主演の悪徳警官もの『プライド&グローリー』を見る。前者は相も変わらぬかったるいミステリー。いくら松本清張といえど、現代風にカスタマイズすると、やはりズレる。ま、ビミョーかな。他の人は気になるまい。しかし、清張氏は昭和を代表する作家だった。代表とは、他をもって替えられないという意味であろう。人間も時代も。後者は描写は派手だが、中身は既製品そのもの。いま話題の『ドライブ』もそうだった。人間が織り成す大衆向きドラマの限界を、この作品も超えていない。もっとも超えたら客は来ないだろう。人間は人間に留まるのだ。 仕事もしなくてはいけない。さて。 2012.04.04(水)9時45、6分起床。妻いるような、いないような。ボケーとしていると、 「はい、お茶。じゃあねー」 玄関のドア閉まる。 よくわからないうちに、1人きり。友達と会いに行くてか言ってたような。神出鬼没である。 枕元の原稿チェック。4枚。おお。あと1枚足して送ろっと。 1人になると、なんとなくソワソワ。何したらいいのか良くわからない。 とりあえず、TV。ニュースかバラエティーかわからん番組ばかり。石田ゆり子様かマツコ・デラックスを出せ。 TV界に絶望して録画に手を出す。お、タイタニックのドキュメンタリーしてる。なかなか面白いが、私のいちばん好きなエピソードー呑み助の船員が、これが最後と、みな逃げ出した一等船客用のバーに駆けつけ、高級酒を呑みまくった挙句、気が付くと救助船の上にいた。酔い潰れた体を波がうまく運び出してくれた上、アルコールのおかげで、何百人も凍死した北洋の海水も平チャラだったーは、やはり無し。すこーし酒呑もうかな、と思わせてくれたエピソードだったのだが。 しかし、録画は10分足らずでおしまい。昨日、仕事しながら途中までかけっ放しにしといたが、消してしまったらしい。 最初から見る気にならず、「欧州美の浪漫紀行/ハンブルク市立美術館」とやらを見る。たまにはいいわい。コローの描いたボートで魚釣りの田園風景が、まともな人間にしてくれる。田舎育ちだったものだから、欧州やアメリカは憧れの対象であった。アメリカのこんな風情はとうに失われたらしいが、欧州の田舎にはまだ残っていそうな気がする。たまにはこういうのもいいなあ。少しやる気が出る。ご飯にしよ。 お。弁当箱あり。おお。中身もだ。なかなかやる妻。美味い。昔編集者の泊まり込みが当たり前だった頃、これを楽しみにしていたヤツが何人もいた。私もたまにラーメンなどこしらえてもてなした記憶がある。 「奧さんのラーメン美味いですね。惚れちゃいそうですっ」 とかね。 隣室でくだらん芸人のコント見て、ゲラゲラ笑ってたり、あんな時代は二度と戻って来ないだろう。 以前クトゥルー関係(これで通じる世の中になったとは!)のインタビューを依頼して来た編集者から手紙。まとめ役の会社がつぶれてトラぶってたらしい。気の毒である。いま、「ナイト・ランド」というホラー雑誌をやってるそうで、近々エッセイをと。いいけど、それまであの雑誌保つかね?ま、創刊号は手堅くまとめ、以下オリジナリティを発揮していく作戦だろう。だが、はっきり言って、これまで出た類似の雑誌のどれにも劣る出来。どうすれば面白くなるか、編集のプロが三人もいればわかるだろう。だったらそれを初回からやんなさい。海外のホラー情報もいいが、なにもかも既製品じゃダメだって。小説だってこの程度でいいの?もっともっと傑作佳作が山ほどあるでしょうが。コラムにしても、初期「奇想天外」誌のを思い出して御覧なさい。「おれはクトゥルーなんて真っ平だあ!」くらいのタイトルで原稿依頼しなきゃ、未来は無いね。一年も保てばいいだろう。はっきり言って、私に連載させないのが、すべての原因だな。 昼は13時半頃出かけて20時過ぎ帰宅。疲れる。仕事後回しにして、録画チェック。疲れる東映時代劇映画の末期に集団抗争時代劇と呼ばれる作品が、私の知る限り3作作られた。うち1本がご存知「十三人の刺客」。一昨年、三池崇史監督でリメイクされた工藤栄一監督の名作である。そして2本目が同じく工藤監督の「大殺陣」。これまた時代テロ=暗殺をテーマにした傑作で、私は「十三人~」よりこっちの方が好きである。所詮は痛快時代だった「十三人~」より、遥かに暗く冷たくテロリズムの本質に迫っている。テロの本質って何だ?テロリストも殺されることである。里見浩太郎なんて、「水戸黄門」に抜擢されたのは、これと「里見八犬伝」の犬山道節役のおかげではないか。すでに市販ビデオも録画DVDも揃っているが、、今回の放映はレターボックス版。しかも、ぐっと 鮮明で、今回の暗殺者の1人山本鱗一が押し包まれて鱠のように斬殺されるシーンなど、ようやくイライラが解消した。 ところが! 2012.04.05(木)なんとBDが映らない。普通のDVDは大丈夫なのに、BDとなるとスクリーンは真っ黒である。理由ははっきりしている。親父の呪いだ(笑)。9時40分頃起床。妻いない。佃煮と頂きもの(感謝)の美味しい笹蒲鉾とを残して行ってしまった。さらばだ>って友達に会いに行っただけだが。ぺーコン・エッグを作る。世間では字を書くしか能のない作家と思っているだろう。フン。 テレビでニュースを見る。げっ、「あと一週間でミサイル。さあ、どうする?」そんなことわかるものか。だ誰が射った? え? この国? いや、北朝鮮? やっぱり、と感心してる場合か。うちに断りもなく、なに好き勝手してやがる。 画面の中では、訳のわからない奴等が、 「イージス艦と対空ミサイルが撃ち落としますよ、はっはっはあ」 と笑っているが、オッサン、マッハ5で飛んでくるマッチ棒を、マッハ6で上昇する針で撃ち落とせると思うか? アメリカはぜーったい不可能と言っとる。実家へ帰ろうかなあ。 夜。妻がやって来て、 「何よ、あれ?」 と凄む。 「何だよ?」 気合だ。 「日記よ日記」 「何でそんなもの見られるんだ?」 「あんたはプライバシーの破壊者よ。何よ、目刺しって、みっともない。まいんち極上のステーキだって書いときなさいよ!」 「しかし、お前、いくら何でも、それは」 「うるさいわねえっ!」 間違えて外谷さんと結婚したんじゃないかと思うのは、こんなときである。 夕飯は、鮪の刺身と蕪の味噌汁、紅しょうがの天ぷら、納豆、おっと極上ステーキ。 11時頃、ある用事で小田急に乗る。混むねえ。平日のこんな時間まで、お疲れ様である。目的地に着くまで、久しぶりに何度か神に祈り、親父を脅す。 とりあえず明日を待つしかない。暗くて仕事出来ず。うーむ。 2012.04.06(金)なんとか焦眉を開いた。一安心。とゆーか、不安故の誤解であった。帰れず夜明かし。この先も不安は拭えないが、いま心配しても始まらない。なんとか原稿書く。5枚。さすがに、ヤバいかなと思い出す。 昼はビーフシチュー・ライス。ま、こんなものだろう。 15時頃、小田急線に乗る。後12、3分という辺りで、ふと、考えた。原稿、持ってきたかな? バッグのジッパー、ジィ~。あ、無い。置き忘れ。戻るのに25分。バスで20分。家で一休みしてから戻ることにする。ほとんど寝ていない。 タクシーの車内で、ふと鍵をチェックしたい気分になる。まさか、ね。あ、無い。バッグの中身を広げる。みっともない。しかし、無いものはない。聞いてくれ。今日は妻も外出して夜まで帰ってこないんだよーだ。 運ちゃんを待たせ、チャイムを鳴らす。出てこないのはわかっている。でも、奇跡ってあるでしょ。なかった。鍵を忘れ、家人もいない、駅まで戻ってくれと告げる。 「そうですかっ」 運ちゃん大喜びである。絶対、親父の呪いだ。 17時近くに戻る。 たまにはいいことがあるらしく、某友人が来訪。相変わらず美人。夕飯の時刻。おでん買って来る。友人はにぎり寿司。しかし、何故か私の胃には入らない。 ぶつぶつ言いながら帰宅の準備。駅までタクシー。見栄。うとうとしてると、この美人、自分の腿上を叩いて 「頭こちらへどうぞ」 とんでもない。勿体なくて、そんなことできるものか。丁重に辞退する。 帰宅。電話一本入れてないので、妻カンカン。不意討ちを警戒して、妻が休んでから眠る。私は自分を極めて平凡な人間であると思っている。人生もそうあるべきだと思う。そうもいかんのかなあと慨嘆するのは、こんな時である。 2012.04.07(土)何故か5時半過ぎに帰国じゃない、起床。原稿書く。5枚送る。先は長いが、時間はない。考えたくないので書くのはよす。妻起きてくる。機嫌悪そう。昨夜のが尾を引いている。「食べるの?」 お酢ではなくドスが利いている。 「うん」 気合いは何処へ行った、気合いは? 焼きそばでいいわねっ?」 ポイントは最後の「っ」だ。 昼過ぎまで原稿。時々、電話。知らない番号である。怪しい。放置プレイ。多分、編集だろう。会社の番号だと居留守を使われるので、自宅からかけて来たりする。飲み屋からかけて来た豪傑もいたな。 「先生っ、お原稿はっ?」 背後で酔っぱらいが、綾小路きみまろの真似をしていた。確か常務になったぞ。私の担当はみな出世しているのに、そう指摘すると、みな蔭で、時間がたてば誰でもこうなるワイ、何人死んだと思ってるんだ、などと悪態をついているらしい。 昼は胃がもたれるので、お餅2つ。 2時過ぎに所用で妻と新宿へ。片付けてから「紀伊国屋書店」のノベルス売り場へ。あそこの新刊はずらりと平積みになっており、当然売れる本は窪む。「魔界都市ブルース」の最新刊は、うーむ。 文庫の方を見て、振り返ると、妻が他人のノベルスの窪みを「魔界都市ブルース」で埋めている。 「おい」 「うむ」 「うむじゃねえ。なんちゅーことするんだ、お前は?」 「営業だ」 「その言葉遣いはやめろ」 「ふん」 敵は「キマイラ玄象変」である。 夕飯は「中村屋」で。妻はインドカリー。私はチャーシュー麺とボルシチとライス。お腹いっぱい。 6時過ぎに帰宅。 2012.04.08(日)付記:先日の午後、評論家の〇田〇男氏と話す。意外な話を聞く。「私も『吸血鬼ドラキュラ』の顔面崩壊シーン、テレビで見た記憶があるんですよ。」 「え」 「中学生の頃でしたかねえ。確かロン・チャニーJr.の狼男と同時放映だったと思います。」 狼男とは日本未公開作品『WOLFMAN』のことで、テレビ放映タイトルは『狼男の殺人』。当時『吸血鬼ドラキュラ』を放映した「日曜洋画劇場」は2時間枠だったため、84分の『吸血鬼ドラキュラ』だけでは持たず、『狼男の殺人』をカットして同時放映したらしい。らしいというのは、『狼男の殺人』は単独放映だったような記憶があるからで、しかし、これは別の映画好きから、同時放映だったと確認を取っである。〇田氏は『吸血鬼ドラキュラ』の第一回放映を確かに見たのである。そして、顔面崩壊シーンを記憶に残した。しかし、同じ放映を私も見た。崩壊シーンはなかった。銚子の「富士館」なる、銚子でも二番館の墓地近くの小さな劇場で、クリストファー・リーの指が頬の肉をメリメリと引き剥がすのを見てから53年。再びあれを見たことはない。 しかし、また一人、異議を唱える人物が現れた。私は早速、療養中の石田一氏へ電話をかけ、 「また出た、ペギラ」 と言った。 「誰ですか?」 これには驚いた。 「わかるんですか?」 「はあ、キクチさんの声と口調でなんとなく」 後は、ま、見なかったと証明させることはできねーからよ。そうだそうだとなっておしまい。ああいう暴論は見つけ次第、早いとこ潰してしまわなくては、と意見の一致を見た。 しかし、こんな話、ホラー映画のファンないしハマー・フィルムのファンでなきゃ、何の意味もないだろーな。 9時半過ぎに起床。妻と口論。ま、わかるけどね。しかし、正論どおりにいきゃあ、世の中世話あないのさ。一応対抗意識も見せないとまずいので、今日は1日不貞腐れていることに決める。ふん。 大沢たかお主演の「桜田門外の変」を見る。いかんなあ。意欲はわかるのだか、時代劇の雰囲気は、現在では、よほど時代劇を研究し、しかも当人たちが向いていないと、何とかカッコつけても、仏作って魂入れずになってしまう。多分、時代劇をあまり見たことがない俳優、何もかも新品にしか見えないセットと衣装、描写にキレがない演出。慣れてないんだよなあ。惜しい。「必死剣鳥刺し」は面白かったなあ。 電器店のおっさんがDvDレコーダーを見に来る。 「あ。こらいかんわ」 製造元の検査員が来ることになった。 原稿やらねば。五枚。編集から電話。会社にいる。うーむ。 頑張るが進まない。スランプ? だからといって書かない訳にはいかない。結構キツいが、なんとかなるさ。50年くらい前からこう言って来たような気もするが。 不貞腐れの時だけが過ぎていく。 夕飯はシャケご飯にゲソの唐揚げ。 「ちょっと薄味だったかな」 独り言のように言う妻。 「今まででいちばん美味い」 と私。不穏な空気が食卓を満たす。気合いだ。 食後。予定表の作製。わたしの趣味は予定表作りだと言いたくなるほど、わたしは予定表が好きだ。それも理想的な、出来もしない予定表が。おお、1日30枚、休みは1日だけ。何か昔の気分が甦ってくるようだ。ちなみに私の月産記録は1100枚、日産は94枚。どちらも成し遂げてから数日は何も出来なかった。イミねーよ。 さて、あっという間の一週間であった。これからちと出掛けてきます、というとことろで、さようなら。 |