菊地先生のある一週間

2004.10.13(水)

さあ、また玉砕日記の再開である。しかし―10「月」と入れようとしたら「憑き」と出るわ、「水」と入れたら「吸い」である。はなからこれかよ。オレはオレか、くそ。ある企画の打ち合わせで新宿へ。小田急の車内の様子がおかしい。しかし、どう見ても普通だ。すこししてわかった。ノースリーブのお姐さんがいない。秋か。つまらない季節になったものである。打ち合わせの内容は内緒。とにかく、進展しつつあるのは間違いない。何がだ? ふふ、内緒。忘れていた。『夜怪公子』第3回120枚。じやあああん、なんと真相は33枚。久しぶりの新記録だ。同じことを担当者H氏に伝えついでに笑う。彼はなぜ、沈黙しっぱなしなのか。とにかく終った。次回は真面目にーしかし、今回も真面目だったのに、なぜ33枚? 実はわかっている。書けないだけ。ああ、情けねー。***は敵だ。せめてゲラだけはちゃんとやろう。
もう翌日ーー14日だが、おれ流には寝て起きたら翌日。13日の深更としよう。腰が痛む。一昨日の夜中に、いきなりスクワットをやろうと思い付き、只しゃがむんじゃつまんねえ、おれは人と違うぞ 、いつか自慢する日のために、特訓だ。早速、リュック型のバッグに重そうな本を詰め込む。しかし、何キロあるかわからず、二階の浴室へ。体重計がある。7.5キロ。10キロ以下は男じゃねえ。下へ行く前に、女房に自慢してやろうと寝室へ。鼾かいてるのを揺り起こして、おい見ろ見ろ、と言ったところ、アホとそっぽを向かれる。いつかおれもあーなりたいモのだ。悪態をつきながら、階段を降りようしたとき、左足が滑った。幸い、打ったのは腰だけ。背中のバッグのおかげで、背骨は異常なし。責任者出てこ〜い。おめえだよ。はい、そうです。うう、いてて。
明日は今日の打ち合わせの関係者と一杯。おれは下戸だが、実は大酒飲みという噂もあり。酒の肴大好きなせいか。実は今日、グラス・ワインを半分やった。熱い。眠くなって困る。

2004.10.14(木)

起床。床の上。妻いない。シャワーを浴びている。理由はわからない。今日は年末に講談社から出る『明治ドラキュラ譚』(仮題)のゲラをやらなくてはならない。昨日、担当者から数回連絡あり。留守にしていたが、多分催促だろう。今度の女房は美人でねえ〜などという電話だったら殺してやる。お茶飲みたいなア、どうやって煎れるのかなアとウロウロ。
S伝社のH氏より電話。日記拝見。33枚は記録です。しかし、自慢してどーすんですかあ? ごもっとも。寝よ
S伝社から『夏の羅刹』見本届く。29日のトーク・ライブについて、同社のY田氏に電話。日記見ましたよ。むむ、青眼に構える。何でそんな明るい声出してんですか、次200枚書いて貰わないと駄目ですよ。うーむ。実は**の**がある。しかし、これは言えんな。黙ってよ。用件が終ると、Y田クン、ところでアレはいつです?ん?そーか、アレか。いきなり催促がくるとは思わなかった。キレかかっとるな。とりあえず、月末ロフト前ということで。
Y田のヤロー何と無く不愉快だ、外谷さんに頼んでヤキいれて貰うかなどと策を巡らせながら新宿へ。打ち合わせの内容は相も変わらず内緒。スパイ気分である。そして、また明日も今日と同じメンバーと逢わねばならない。ひええ。これで通訳の娘さんがいなかったら、三十代後半から六十代はじめの男ばかりがずらり。死んだ方がマシである。男同士っていいなどと抜かしたのは、どこの気違いだ。ローラン行って5分も経ってみろ。男の顔なんぞ見たくなくなるワイ。
しかも、明日は朝の9時に起きねばならない。その前に『明治ドラキュラ譚』のゲラやって、*のストーリーを***氏に送らなければならない。しかし、いいのだ。実は明日はねえ〜 ウフこれも内緒。あー気持ワリ。もうこの書き方やめヨ、ウフ

2004.10.15(金)

7時就寝9時起床。妻に起こされる。今日はこれから西部劇『アラモ』を見に行くのだ。打ち合わせの時間を考えると、初回しかないのである。しかも本日まで。無論、60年公開のJ・ウェイン主演『アラモ』のリメイク。おれの原点のひとつだ
何の原点? 西部劇好きの、である。既に退潮期に入っていた西部劇に喝をいれるかのように、或いは挽歌のように、この年二本の大作が生まれた。『アラモ』と『荒野の七人』である。どちらも日本で大ヒット。西部劇ブームが来た。おかげで過去の名作が続々と公開され、リバイバル・ブームと呼ばれた。トップを切ったのは『駅馬車』、次が『荒野の決斗』『シェーン』だったかな。こうして田舎の純朴な一少年が、いっぱしの西部劇通ぶれた。その原点のリメイクへ誰と行くのよ、ガオか。とにかく眠い目をこすりつつ新宿へ。劇場へ入って驚いた。客はいる。しかし、みな白髪と禿げ。わざわざ『アラモ』に来る連中だ。おれと同期か上だろう。明日は我が身とはこれか。映画の出来は・・まあいいだろう。ミス・キャストだよ。しかし、なんでこう顔の区別もつかない汚らしい役者ばかりなのか。
1時から2時30分までいいこと曹り。ウフン。人混みの中に友を見付けるのはいいものである。打ち合わせは成功。ホクホク。女性が3人もいるのがいい。気分がいいので、外谷さんにケットーでも挑むか。帰るつもりが、夜六本木へ行こうと誘ってしまったのも、このせいか。
いったん帰宅。ゲラすこしやる。少し運動。腕痛い。昨日で2カ月め。おれは意志の権化だ。しかし、動かした部分が必ず痛み、その前の痛みが全然引かないのは何故だらう? 誰かが、トシダトシダと言っている。
夜、品川プリンスへ。駅前でタクシー。30秒で着く。目の前だった。無知の涙か、くそ。女性は一人に減ったが、きれい。しかも、落ち着いていて慎ましい人である。昼の三人も元気いっぱいで嬉しかったが、こちらもよろしい。話を聞くと奥様。ウーム。話そっちのけで、お住まいは? ご趣味は? とやらかす。後で自分がイヤになる。
六本木はいつもの店。タレントになるため店をやめる子がいる。しっかりやりな。鮨食いに行った話をしたら、馴染みの子が、センセー誰と行ったの?と凄む。虚虚実実の攻防である。安住の地は何処じゃ? 口滑らせるのがワリイんだよ、あほ。楽しく帰宅。

2004.10.16(土)

起床。妻いる。寒い。昨夜のことを思い出してもっと寒くなる。今日は一日家。と思ったら、ある電話で憤然。松平健がナンボのもンじゃ? 嫌がらせに新宿へ行こうかな、と画策。やっぱ真面目にゲラやろ。『明治ドラキュラ譚』イケル。
性懲りもなく少し運動。腰と背中攣る。いててて。それにもめげず、例のバッグ背負ってスクワット。一時間ほど後で急激に腰が痛みだす。横になる。母が嬉しそうに見て通り過ぎる。ブルータスお前もかい。辛気臭ぇったらねえ。
このところ*に狂っていたため、本業がガタガタ。この辺で修正しなければ。『明治ドラキュラ譚』のゲラも終ったことだし、とりあえず『幽王伝』15話にとりかかる。ビデオかけっ放し。『失楽園』。大ヒットしたが、評価はどうだったか。おれは秀作だと思う。いい映画だった。好きとは言えない黒木瞳が、これだけはいい。監督の腕だろう。女性を美しく撮れる男は得である。おれの知り合いのカメラマンはヤ*シ*ルヒ*コと浮き名を流したし、『シャル・ウィ・ダンス』の周防を見よ。あの顔で民代と結婚できたんだぜ。ま、顔の話はよそう。『失楽園』はいい映画ということだ。おれにだけかもしれんが。
原稿進まず。なんとかモチベーションをあおりたてねば。よし、と思って運動。いかん、眠くなった。寝る

2004.10.17(日)

友人よりの電話で起床。妻にらむ。面倒なのでトイレへ。女房がなんとかかんとか。張り倒せとあおる。長電話。妻が、火事よ火事よとわめきながら、ドアを叩いて通る。うるせー。死について考える。時々母くる。おれの顔を見てにやりと笑って去るのは何故だ? ボケかかっているとはいえ油断がならん。さて、今日はすこしいーことがあるだろうか。
『幽王伝』前回の原稿を読む。まるで進まない。なんだ、この字は? た、か?ろ、か? これが45枚も続く。こんな原稿、仕事とはいえよくまあ。編集者はエライ。読んでいくうちに本気で腹が立ってきて、手前のゲンコーを床に叩き付ける。
しかも、タイミングよく母が来て、『失楽園』のラブ・シーンを見て、「良くやるねえ」。だけならいいが、おれに同意を求められても困る。「黙ってみてなよ」と言うと、「来るといつもここが映ってるねえ」。ボケてんじゃねえのか、おのれは?
うたた寝したら、妙に寒い。あ風邪だ。急ぎ薬を飲む。少しして躰熱くなる。これで・・・・あれ、効かない。これはホンモノだ。大丈夫。最高の手がある。薬のチャンポンー大量摂取である。異なる薬を三包まとめて飲む。オオ、オオ、オオ、相変わらず効く。熱い。汗びっしょり。さ、原稿だ。そろそろ床の上も潮時かな。寝室へ行こう。その前に『幽王伝』書かなきゃ。K社の社長は10冊出すと言ったが、そこまで行くかどうか。ま、やってみよう。しかし、読めない。待て、良い手あり。
何とか読めるようになった。しかし、字が読めても小説は進まない。かたわらでは、役所と黒木がウフン、イヤン。しかし、消せない。また自分がイヤになる―って大嘘。そろそろ眠くなる。明日は今日よりいい日だろうか?外谷さん出て来る
そろそろ眠くなってきたのに、原稿はまだ5枚。もう少し頑張らないと、後がきつい。熱も下がらんしなあ。寝込むことになったら、周囲のみなさんご免なさい。やばい。咳まで出てきた。こりゃあかんかも知れない。また明日。

2004.10.18(日)

起床。妻いる。本日は寝室である。風邪ひいたな、これは。涙目で微熱、寒気がして喉が痛む。こりゃ寝てた方が良さそうだ。原稿目下6枚。本日に期待しよ
昼近く。熱ますます上がる。測ってみると37度5分。久しぶりである。35年ほど前は、あなたの風邪なら移して欲しいわという娘がいたものだが、今はひょえ〜〜と逃げまどうだろうな。過去のエイコーばかり追っても虚しい。医者へ。
K談社のN田氏来る。『明治ドラキュラ譚』のゲラ渡す。タイトルは変わるかも。発売日を訊く。ロフトに間に合いそうだ。体温計。38度1分。ここ40年くらいの記録。原稿進まず。ま、しかし、見てろ。キクチヒデユキの真骨頂はこれからだ。
数時間寝てしまう。サ、少しは楽に・・・ナッテネえ。そうか、寝る前に薬を飲み忘れたゾ。うう、苦しい。尼寺へいけ。わっ、外谷が出てきた。何が尼寺だ、外谷の穴じゃねえか。さ、悪夢は終りだ。外谷さんのように食事して頑張ろう。
午前2時起床。眠ってしまったらしい。薬飲む。やっと汗をかく。少し楽。原稿にかかる。咳ひどし。丸二ケ月置いといたら、すっかり忘れてる。ノベルス版を読む。ふむ、なかなかオモシロイ。没頭。あ原稿。気がついたら5時半。ためいき出る。

2004.10.19(月)

最後の日記だというのに、闘病記になりそうである。辛気臭いが了解して下さい。医者の薬がまったく効かない。珍しい。熱下がらず。これからもういっぺん医者へ行って、薬を変えて貰って来よう。原稿進まず。目下10枚。やれやれ
熱37度7分。やった!しかし、ダルさは抜けない。躰中の関節や筋肉が痛む。咳ひどし。ごほんとやるたびに肺が燃える。ぎえええ。少し大袈裟か。熱が下がったら原稿やろ。しかし、長い夜であった。
ちとしんどいので日記はこれでおしまい。ただこういう暗い結末は真っ平である。具合いが良くなったら、もう一日分付け足します。お楽しみに。では。

2004.10.24(日)

やっと少し回復したので、実家へ店賃を取りに行く。渋滞を避けて午前中に出るつもりが、また友人から電話。子供と相撲を取ったら、いきなりぶちかましを食わされ、ひるんだところを下からすくい投げでやられたという。お前それでも男か、再戦を申し込め、一服盛ってもかまわねえ。倅なんぞに舐められると後が厄介だぞ。すると、恥ずかしそうに、違うと。何がどう違うんだ? 実は娘にやられた。柔道部の主将で90キロ超だという。呆れ果て、それでも、近頃の女子高生はでけえからと慰めると、それが、中学生だという。二度とかけてくんな、馬鹿野郎。この時もトイレで話す。ドカンとドアが鳴る。業をにやした妻が今度はけとばしたらしい。食うか食われるかだ。
実家へ。道路空いてる。二人とも風邪引きなので、狭い車内でごほごほ。陰気くせえったらねえ。薬飲めと言うと、フンと返してミルキーなど舐めている。そんなもンでなおるか、アホ。なんとか着く。毛布買いにいく。
しかし、うちのは何故肩をゆすりながら外股で歩くのか。あれでも少し太ったら外谷さんである。いっちょおだてて取り組みでもさせるか。いい勝負だろう。毛布いいの無し。ど田舎め。三軒目でなんとか見付かる。やれやれ。
めでたしめでたしということで、おれは床屋へ。確か月曜は休みだ。前回行った話し好きの奥さんのところ。その前の若くて可愛い奥さんとは別。徒歩5分。先客がいて30分ほど待たされる。散髪中、世間話。銀座商店街の主どもは・・何故、おれが上京してから、続々と女と逃げ出してしまうのだろうか。こしらえるのは仕方がない。しかし、逃げるのは悪手である。子供の頃よく行ってたオモチャ屋のオニイさんも布団屋のおっさんもそうやって消えた。
しかししかししかし、それを悪だ、やめろとは、55になったおれは言えない。何処でどんな風に生きているのかしらないが、いつも都会の匂いがする品をショー・ウィンドに飾っていたナガシマ・オモチャのオニイさん、勇気がありましたね。
ちなみに話し好きの奥さんも可愛らしい人である。少々お年だが。床屋を出て本屋やコンビニへ。今日でこの日記も最後。なんとか約束は守れたようだ。楽しんでくれましたか。ではまた、次の機会に。
(管理人より:記事を日毎にまとめさせていただきました。また半角カナを全角に直し、絵文字は省略しています。)
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