菊地先生のある一週間 |
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2004.4.20某社の某原稿(事情によりタイトルを伏せる)13枚書く。少ない。歯が痛いのと少々外出していたので仕方がない。但し、今やっている回はこれでおしまい。深夜、別の某社の某原稿を書き始めるが、友人より電話。家庭の事情など愚痴をこぼされる。「おまえなあ、ガツンとやらなきゃいかんぞ」などと家庭内闘争を無責任に煽る。煽っているうちに眠くなり、結局一枚も書けず。明日に持ち越そう。 2004.4.21起床。妻おらず。逃げたかと思ったら、ひとりで芝居を観に行ったらしい。オロオロして何をしていいかもわからない。お茶か食事かトイレか、順序を間違えるとおかしなことになりそうである。居間を歩くとテレビのモニターの画面が変わる。他に誰もいない。リモコンも操っていない。我が家独特の現象である。地団駄踏むとパッパッパッ、実に面白い。 目下原稿執筆中だが小一時間のうちに4件も宅配が来た。おかげで進まない。居留守を決め込むことにする。 モニターの画面で外人の女がベッカムとの不倫を暴露している。さしたる理由もなく「バカものめ」とつぶやく。 角川春樹事務所より『幽王伝』見本くる。10冊。オレンジづくめ。表紙も帯もオレンジである。マニアがいるのか。タイトルは黄色、作者名白抜き。帯の文句は「剣鬼たちの血の饗宴!」だが、おまえの血はオレンジか。イラストもよろしくない。色っぽい女が描かれているが、鼻の穴がはっきり描かれているのでちっとも色っぽくない。おまけに胸をはだけて巨乳が透けているが、どうも痩せて見える。乳房と乳房の間があいているからだ。乳房は密着していなくてはいけない。 原稿進まず。やっと五枚。まるで国会の野党である。理由を探る。なんだ、すぐ眠ってしまうからか。催促電話ひっきりなし。外谷さんを秘書に雇うかと本気で考える。あの声で「いまセンセー便所。三か月は出てこないわサ。あんた覗いてみる?」とやらかしたらーーいかん、わしの破滅じゃ 用事でちと出かける。原稿さらに五枚。まるで瀕死の遺書である。情けない。じゃね。 用事の途中から、舌の裏が気違いじみて痛みだす。訳あってギザギザの歯が休みなく当たるからだ。どのくらい痛むかというと、いテテテテテテテテテテテテテテテテテテテテ。これくらいである。誰かに八当たりしても治りそうにないし、ドラッグはもう閉まってるし、さてどうなる?ーービタミンを飲もう。しかし、効くかはわからない。 TVでは、どこかの政治家が、金を返せと叫んでいる。お前の金なんざ一円も使ってないよ。あんなに立派な税金の使い方なかったのに。アメリカのパウエル報道官の見事なこと。いつからこんなバカを我々は政治家に仕立ててしまったのだろうか。 原稿はさらに10枚。計20枚。前のと合わせて25枚。サイテーに近い。寝る。 2004.4.22起きる。「小説NON」「問題小説」等来る。NONは「魔夏譜」第一回。見開きのイラスト、GOOD。しかし、背後の人物は何者だ? 三枚目のイラストに出てくる藁人形みたいなものは何だ? 描けと指定したのはおめーだヨ。はい、そーです。末弥さんご免なさい。しかし、謝ってもすまんな。あいつと藁人形が何なのか思い出さなければ。悩む。飯野先生に電話。ある女流作家のオッパイの話題で時を忘れる。いかん。原稿をやらねば。今日も後で出かける。また、催促電話。 いまだ終わらぬDについて、ソノラマのI氏とTEL。なんとか言い逃れる。「シシャ(舌)がイシャイ(痛い)ンデフ(です)」と泣き言を言ったのがきいたか? しかし、これホントに痛い。誰か助けてくれ。当然、原稿進まず。メール読む。別の催促。 体調すぐれず、ロイヤル・ゼリー入り酢を飲む。突然、咳と胸やけ。むむ、五倍に薄めてお召し上がり下さい。新種のカルピスか。文字通り七転八倒。ろくな目にあわねー。外谷さんでも拝むか。いっそ新興宗教でも興す?拝臀教なぞどうだ。 舌が痛い。原稿進まず。10枚。昼一杯使ってこれか。同人誌出身か、オノレは。母と叔母ニ階で沈黙。いると思ってるのはわしだけか。それくらい静かである。外谷さん出てこい。これからコミック誌の長と打ち合わせ。はてさて。 23日零時5、6分頃帰宅。打ち合わせの結果は一勝一敗。業界の話をいろいろ聞く。飯野先生へ連絡しなくては。いずこも大変らしい。 風呂へ入ってから原稿書き。昔なら平気で取り掛かったのだが、歳のせいか時間がかかる。 夜明けだ。寝よ。なんとか15枚。計25枚。まあまあか。就寝タイムも書きたいのだが、やめておこう。ペンは進んだ方か。そういう内容の話だったしな。 じっくり書く、スピードが乗ってきたら書くのをやめて見直すという人が多いがわしには当てはまらない。茹で上がったパスタに水をぶっかけるようなものだ。120キロで突っ走ってきた車に急ブレーキをかけたらどうなる? 勢いは落とせない。ゲラで見直そう。よく、あなたの小説は、読者が息をつく暇がないと言われるが、当然である。読者に息なんかつかせて堪るか。一緒にバニシング・ポイントを越えて貰おう。それに、じっくり書くとひとつ困った現象が起こるのだ。いつの間にか、じっくり書けばいいものが出来ると無意識に言い訳して、怠けてしまう。これに気付いたときは愕然とした。要するに、自分には向いていないと言うことだ。アクションにはまず疾走感。車でぶっちぎるあれである。いくら文に凝っても、資料調べても、これが先天的に無いと駄目よ。 おやすみなさい 2004.4.23起床。妻いる。下へ降りるとNTTの職員が二人。面倒なので仕事部屋へ隠れてやり過ごす。すぐに帰ったが何しに来たのか。面倒なので訊かない。外谷さんでなくて良かった。讃岐うどん食べてから成城の歯医者へ。外は暑い。この歯医者は夜の九時まで開いてるので助かる。前は赤坂の歯医者に通っていた。神経が膿んでいるというのに、レントゲンに映ってないからと、歯を削るだけであった。想像力がないのか、面倒臭いのか、リスクを負いたくないのか。多分全部だろう。同じような目にあった外谷さんは、薮!と叫んで出てきたそうだが、真に羨ましい。治療オッヶ。 これから、女流作家二人を御殿場近くの整体医院へ連れていかなくてはならない。K書店のもと社長に教えて貰った医院だが、わしの椎間板ヘルニアは一発で治して貰えた。ちょっと触って、「いま入れてやっから」 え? ハイ、体丸めて。は〜い、OK。この間二秒。階段を一段飛び降りただけで、ズキンと来ていたのが、今ではニ階から飛んでも平気だと思う。こんなに短時間で、はっきり結果が出たのは虫歯を抜いて以来である。 待ち合わせは駅のホーム。えい女史は早めに到着。遠距離で危ぶまれるびい女史来ず。場所を間違えたかと、電車来るたびホームを駆け巡る。おかしいなあと、えい女史携帯で連絡。「あら、上の改札にいるって。ホームってメールしといたのになあ。読んでなかったんだね」ああそーかい。とにかく上へ。ご丁寧に、びい女史は改札の外で待っていた。 急行と各駅を乗り継いで新松田へ。そこから、タクシーで30分かからず到着。先生相変わらず、「どこでこんな治療した」「腰痛バンドなんか使うな。あんな物で治るなら、おれは治療やめてバンド売ってるぜ」とゼッコーチョー。 二人が治療受けてる間にきれいな奥さんが、母親と子供連れでやって来る。グラマー。セーターの胸ぐり深し。ゲラのチェックするつもりが、目がココロを裏切る。ふと、飯野先生にも三分の理と思う。 帰り。タクシーが三十分かかるという。困っていると、治療に来ていた大きな奥さんが小田原だから途中まで乗せていってあげるという。まだこういう親切が残っているか。ありがとうございます。本当に助かりました。しかし、名残り惜しいのは何故だろう? 帰りの電車、ゲラ見ながら寝てしまう。空いていたのに目が覚めると大混みで呆れる。京プラで中華料理。美味いがただれた舌が痛む。しかし、この店、いつの間に噴水広場になったのか。八時にハリウッド版“D”のストーリーをセンチュリー・ハイアットで読む約束。食事中座。ご免なさい。 三十分遅刻。申し訳ない。いつもの担当M氏に可愛いギャル一人。頭が良さそう。セブン・アップ頼んでストーリー読む。久しぶりに燃える。書いたのはフランス人のシナリオ・ライター二人。片方は日本人のワイフがいるという。そのワイフ、国籍詐称だぞ。 世界観、Dの性格、最低の解釈。屑ライターども。エセ悲劇と世の中恋愛がすべてよンのフランス式低能世界認識。アニメしか見てねーな。だからいつもドイツに負けるのだ。もっかいパリ占領してやれ。日本人のワイフ? お前日本語喋れないだろ。怒りのあまり、ストーリーをテーブルに叩きつける。二人凍りつく。もう一回書き直させ、ライターの交替も考えていると。この二人の責任じゃないと思いつき、やっと冷静になる。なんなら、わしがストーリー書くと提案。考えてみれば、それが最良の方法だろう。いつも冷静なボク。向こうも、それでお願い出きれば、とニンマリ。さてどうなるか。 タクシーで帰宅。誰かフランスのシナリオ・ライターにだけ効く毒薬、開発しろ。遅れて帰宅した妻に、バカドジマヌケと悪態。殴られる。クソ。 2004.4.24さあ原稿やるゾ、と気がついたら朝であった。しかも書斎ーー居間の床の上である。本物の起床か。妻いる。とりあえず残りの某原稿10枚を片付け、あと90枚とコミックの原作。三日だな。今日から実家へ帰る。留守番は甥たち。原稿書きながらウトウト。妻がある会社へ、コピーの稿料を請求するのに、相手の名前がわからないとゴネる。確か昨日渡したはずが、知らないと言い張る。地獄へ堕ちるゾ、おめー。不貞腐って出ていく。塩まいとこ。原稿進まず。 甥たち来る。これから帰郷。母と叔母は先に電車で帰っている。原稿10枚。やれやれ。 黙って運転していた妻がいきなり、あなたベンツにしましょうよと言い出す。気でも狂ったか?なんでもうちの車の製造元が融資を断られアブナイと。ふーむ、いきなり外車か。昔、殺しのなんとかという映画で、ロールス・ロイスの隣にとめたベンツが、ベンツなんぞ停めんで貰おうと言われてたしな。 他の作家はドライブ中にストーリイとか考えるらしいが、わしはパーである。メモと筆記用具なしでは、美女のヌードひとつ出てこない。その代わり、紙ナプキンでもパンフレットでも箸入れの裏でもシャツでもなんでもよろしい。時と場所も選ばない。一番忙しい時は、映画みながら、スクリーンの光頼りに書いたこともある。ちゃんと読めるし、枡の中にも収まっていた。映画の内容も覚えていた。ま、若かったからな。いまやったら、どちらもアッパラパーであろう。また実家で一から。ヤレヤレ。 舌まだ痛む。ついに口内炎の薬を貼る。イテテというよりエゲゲか。この薬は貼った瞬間に効くのだが、飲食するとたちまち剥がれてしまう。やっぱ、塗り薬の方がいいかな。途中、成田のラディソン・ホテルで夕食、外人スタッフの常宿である。レストランも紅毛碧眼とステーキばかり。味噌ラーメンを頼む。美味いが舌が・・・ 帰るとすぐ様々な領収書を整理する。実家は小さいながらも貸しビルなので、店子が三軒家賃を持ってくる。判押したり面倒。お湯ひとつ沸かせないと書いたヤツは誰だ? あッという間に翌日。しかし、仕事はこれから。多分進む。 4時。寝てしまった。漫画原作10枚。わしは同業者ー例えばアンソロジスト、作家、編集者等ーには血も涙もないが、漫画家さんには気を使わねばと、常々考えている。えらい。しかし、これから小説をひと踏ん張り。疲れる仕事ではあるな。 2004.4.25起床。妻いる。すぐ横でヤンキー座りで株式欄を読んでいる。びっくり。これで爪楊枝をシーシーやっていたら、競馬場のオヤジである。結局、昨日は原稿一枚の半分。O先生怒るだろうなあ。今日からやるゾーの予定。何やるかはナイショ。今日は散髪行く予定。前回も実家。意図的な行為である。床屋のオネーチャンが可愛い? ま、そんなとこだろう。ところが、母が墓参りに行くと言い出し、妻は叔父さんの家に八ヶ岳土産のジャムを持っていくと主張。やれやれ。生者と死者の区別はあるが、付き合いのいい連中である。とりあえず墓参り。うーむ。後で大橋を渡って叔父宅へ。神奈川である。勝った。あれこれ昔話。ジャムのお返しにでっかい酢蛸と干物貰う。十倍返しか。ナイショで喜ぶ。 駅前でわしのみ下車。食堂で刺身定食をとる。上である。うむ。楽しみの床屋サン。フフ。ところが、ドア開けてくれたのは腰の曲がったお爺さん、スタッフはその息子らしいオヤジと茶髪のアンチャン二人。何が楽しみで来たと思っているのか。非常識な床屋であった。 帰宅後、母からあそこは銚子でも一、ニを争う腕のいい床屋だと聞く。そういえば。ふむ、わしの眼に狂いはなかった。帰って原作10枚。小説はどうした? 知らん。また舌が痛む。塗りグスリを求めてクスリ屋へ。みな休み。ど田舎め。 夕食後、「行列のできる法律相談所」を観てから原稿。一家団欒などという言葉は噂で聞いただけなので、TVも観ずに、実家では仕事がワリカシ進むのである。ところが、これがアウト。外谷さん、わしの背から降りろ。さて、どうしたものか。 結局、資料を調べなければならないと判明。イヤンイヤンイヤンーと言っても仕様がないので、調べる。たったふたつのために小一時間。わしはアホじゃ。以後の作品は全て、一室限定の恋愛モノとする。但し書けなかったら別。信長なんかヤだ。 2004.4.26日記の最終日。昨日は原稿5枚。サイテーもサイテーだが、これに関しては0よりマシである。いや、迷惑のかけっ放し。編纂者のみならず作家まで怒り心頭らしい。前にも言ったとおり、同業者に対しては血も涙もないわしも、気がとがめる。8時30分頃、信用金庫の担当来て、謀議を巡らした後、東京へ出発。天気良し。風邪冷たい。舌まだ痛い。途中イタ飯屋で朝食。茶髪のごついアンチャンがクリーム・ソーダ。色々と勉強になる。今日は夕方から京プラで台湾の出版社の取材。うげげげ。 高速へはいるやグーグー。起きると成城。妻いる。我が家まで五分。おかしな葉書あり。イヤラシイ電話をわしが使用しており、その料金を払っていないため、一週間以内に連絡を寄越さないと、いろいろまずいことになるという。これだ! 面白いから一週間待とうと決める。しかし、こういう葉書やメールがきたら、身に覚えがなくともあわてふためいて、連絡し、脅されて支払う人がいるに違いない。もう少しスマートで他人を泣かせぬ手口はないかと考えてやめる。 京プラへ。台湾でDシリーズを出してる奇幻基地出版の編集さんが、国際ブック・フェアーのために来日。インタビューを申し込まれたのである。おっかない顔の人たちがゴロゴロしているので気が重かったが、ラウンジへ入ってびっくり。全員女性だあ しかも3人美女揃い。もうひとり年配の女性がいて、こちらは東版国際部の通訳の方である。国際ブック・フェアのために来日したという。なんでも向こうの出版社は編集は女性、男は営業と決まっているらしい。頭と腕っ節。これが正しい出版社の姿だ! 質問の後、サイン下さい。いーともいーとも、マンがもカイチャウ。きゃあ、センセー、ありがと〜 手をつないで写真も撮った。余は満足である。あのウ、来年の2月に台湾でブック・フェアがあるんですけど、センセ来て下さらないかしらン? 地獄でもオッヶ とゆーわけで、台湾がわしを呼んでいるのであった。作家になって何が良かったか? これだよ 楽しみの後にはソノラマのI氏であった。問い詰めと言い訳の攻防は秘密である。Dは五月だ、オオ!で手打ち。蕎麦食って帰る。 28日の西部劇座談会のためG・クーパー主演の「西部の男」を観る。さすがW・ワイラー、凄い演出である。だが、サイコーはクーパーにあらず、ロイ・ビーン役のW・ブレナン。人間味溢れる悪党を見事に演じている。 さて明日は西村京太郎氏と対談なのだがー西村氏の体調のため湯河原までいかなくてはならん。何枚原稿が上がるかわからないが、早めに寝よ。 日記はこれでおしまい。最後まで付き合ってくれた皆さんに感謝する。ありがとうございました。機会がありましたら、またね。 (管理人より:勝手ではありますが、複数記事を日毎にまとめ、適当に段落をつけさせていただきました。また半角カナを全角に直し、絵文字は省略しています。) |